訪日外国人旅行者数と国別消費動向からインバウンド事業を考えてみる

訪日外国人旅行者数と国別消費動向:インバウンド

新型コロナウイルスの影響で訪日外国人観光客が激減したとニュースになっていました。

ほぼ鎖国 : 4月の訪日外国人99.9%減
https://www.nippon.com/ja/japan-data/h00728/

ちなみに、僕の会社はインバウンド事業がメインですので、大きなダメージを受けています…。

今後の経営のこともあるので、事業の継続と新しいビジネスモデルを考える上でも、現状のインバウンド市場や傾向を冷静に見てみようと思います。
ちょうど、2020年4月に2019年度の訪日外国人旅行者数・消費動向調査の確報版が発表されましたので、昨年以前との比較や分析をしたいと思います。

この記事でわかること

  • 日本の観光市場規模
  • 訪日外国人旅行者数と推移
  • 訪日客と日本人旅行者の支出比較
  • 訪日外国人客の旅行支出内容
  • 国籍別の訪日外国人観光客対策
目次

日本の観光市場(2019年度)はどのくらい?

まずは、日本の観光市場から見ていきましょう。

*本ページで使っているデータは全て観光庁と日本政府観光局から発表されているものです。データはこちら(訪日外国人消費動向調査旅行/観光消費動向調査訪日外客統計の集計/発表

日本の観光市場は約27.9兆円です。
内訳を見てみると下記のようになっています。

訪日外国人旅行者数と国別消費動向:インバウンド

観光市場で見てみると、外国人観光客が増えてきているとはいえ、実は大半が日本人の国内旅行者で成り立ってるんですね。金額で言いますと、訪日外国人観光客市場は、日本人の日帰り旅行者の市場規模とほぼ同じです。
これは皆様の印象とはずいぶん違うのではないでしょうか?

この数字は「消費額」で見た市場、つまり金額における規模です。
では、「人の数=観光客数」で見ると、どうなっているのでしょうか?

日本人延べ国内旅行者

延べ旅行者数うち宿泊旅行者うち日帰り旅行者
5億8710万人3億1162万人2億7548万人
出典: 旅行・観光消費動向調査 2019年年間値(観光庁)

訪日外国人客数

訪日外国人客数は以下の通りです。地域別の数字も入れてあります。

総数31,882,049占率
 アジア26,819,27884.1%
 ヨーロッパ1,986,5296.2%
 北アメリカ2,1875576.9%
 南アメリカ111,2000.3%
 オセアニア721,7182.3%
 アフリカ55,0390.2%
単位:人  (日本政府観光局(JNTO)調べ)

実は訪日外国人のほとんどはアジアから来ています。欧米からの訪日客はアジアからの10分の1以下ですので、ビジネスとしてある程度の規模を狙うのであれば、アジアを基本に考えないといけません。

ちなみに、訪日外国人客の70%は中国・韓国・台湾・香港から来ています。

実はインバウンド市場はニッチ

日本人の延べ国内旅行者数は約5億8,710万人で、訪日外国人観光客数は約3188万人でした。

訪日外国人観光客は、日本にいる観光客総数の約5%程度ですので、旅行市場全体から見ると、外国人を相手にするのは実はかなりニッチだということがわかります。
日本人日帰り旅行者を除いた「宿泊旅行者数」に対してでも、1/10程度の数でしかありません。

もちろん、日本人には大人気で外国人には知られていない場所や、逆に「観光客のほとんどが外国人」という観光地もあると思います。

ですが、総数でいうとほぼ日本人ですので、新型コロナウイルスの影響で国内の観光地がガラガラというのは、そのほとんどが海外からの観光客減少というより日本人が旅行をしていないことに起因してるものと思われます。

インバウンド事業は、実は観光市場においては「ニッチ市場」ともいえる、というのが数字から見えてきます。

訪日外国人観光客の推移

日本の観光市場は大半が日本人が形成しているのに、どの観光地も外国人だらけという印象を持ってしまっている人が多いのではないでしょうか?

それは、やはり「外国人観光客の急増による」印象が強いのだと考えられます。

訪日外国人旅行者数と国別消費動向:インバウンド

今でこそ、3,188万人もの外国人の方に来ていただけるようになりましたが、ほんの10年前は1/6程度の数だったんですね。
ですから、街に外国人観光客が溢れていると認識してしまっても仕方ないかもしれません。

日本人1人あたりの旅行単価

総数で見ると、金額にしろ人数にしろ、観光市場を作っているのは「日本人の国内旅行者」ということがわかりました。

では、日本人旅行者の旅行単価はどのようになっているのでしょうか?

日本人観光客の約5億8,710万人のうち、宿泊旅行が3億1,62万人、日帰り旅行が2億7,548万人と宿泊と日帰りの数がほぼ半々となっています。

宿泊旅行と日帰り旅行のそれぞれの旅行単価は、

旅行単価うち宿泊旅行うち日帰り旅行
37,355円55,054円17,334円
出典: 旅行・観光消費動向調査 2019年年間値(観光庁)

となっています。

訪日外国人旅行者はいくら使っている?

では対して、訪日外国人観光客の旅行消費額が見てみましょう。下記の図をご覧ください。

訪日外国人旅行者数と国別消費動向:インバウンド
出典: 訪日外国人消費動向調査(観光庁)

中国が一番たくさんお金を使ってくれていて、次に台湾・韓国・香港と、上位にはアジアが続いています。

訪日外国人観光客は何にお金を使ってる?

では、旅行費用の内訳はどうなっているのでしょう?

訪日外国人旅行者数と国別消費動向:インバウンド
出典: 訪日外国人消費動向調査(観光庁)

このように、買物代が一番多く(旅行費用の34.7%)、続いて宿泊費(29.4%)となっています。

*娯楽等サービス費とは、現地ツアーや体験型消費(温泉やテーマパーク等)を指します。

旅行費用の内訳は国や地域でどのくらい違うか?

上記の表にもあるように、一番お金を消費してくれているのは中国人ですが、費目別にみていくと、国によってバラツキがあります。

そこで、国籍別に各消費費目トップ5ランキングを作成してみました。このランキングで取り上げる国は、年間20万人以上訪日している国に絞っていて、16カ国になります。

年間20万人以上の訪日国(16カ国)

日本政府観光局(JNTO)調べから、年間20万人以上訪日している国は下記の16カ国です。

アジア中国・韓国・台湾・香港・タイ・フィリピン・
マレーシア・ベトナム・シンガポール・インドネシア
北米米国・カナダ
ヨーロッパイギリス・フランス・ドイツ
オセアニアオーストラリア

この16カ国からの訪日客は、費目別にどのくらいお金を使っているのか、みていきましょう。

飲食費をよく使う国トップ5

訪日外国人観光客で一人当たりの飲食費が高い国ランキングです。

順位国名支出額(円)
1位オーストラリア62,130
2位イギリス62,101
3位フランス59,608
4位ドイツ49,104
5位米国48,279
円/人

飲食代が高い国々は、滞在日数が長い国も多いので、そういった要因もあるかもしれません。

買物をよくする国トップ5

訪日外国人観光客で一人当たりの買物代が高い国ランキングです。

順位国名支出額(円)
1位中国108,788
2位ベトナム58,780
3位香港52,176
4位タイ42,550
5位シンガポール42,402
円/人

買物代は圧倒的に「中国人」です。逆に欧米はほとんどが下位にランキングされています。

宿泊費にお金をかける国トップ5

訪日外国人観光客で一人当たりの宿泊費が高い国ランキングです。

順位国名支出額(円)
1位イギリス102,944
2位フランス100,136
3位オーストラリア99,537
4位ドイツ89,748
5位米国83,125
円/人

宿泊費も欧米が高いです。滞在日数が長いからなのかとも思いましたが、1日あたりの宿泊費も高いので、これらの国の人たちは、ホテル(旅館)へはある程度お金をかけるのだと考えられます。

現地ツアーやテーマパーク・文化施設などにお金をかける国トップ5

訪日外国人観光客で一人当たりの娯楽等サービス費が高い国ランキングです。

順位国名支出額(円)
1位イギリス22,091
2位オーストラリア18,540
3位フランス11,029
4位カナダ8,744
5位米国8,692

こちらも欧米の国々が上位です。体験型ツアー・テーマパーク・美術館/博物館などの文化施設などが対象ですが、アジア圏の国々はまだ上位にはランクインしてきません。(ちなみに中国は6位です)

データから見る:どの国の人をターゲットにすべきか?

このように数字にしてみると、どの国の旅行者がどこでお金を使うのかという傾向が見て取れます。

自社がどのようなサービス・商品を販売しているかによって、ターゲットとすべき国が変わってきます。

ただ前提として、上記でみてきたように、観光客はほとんどが「アジア」からで、かつ中国・韓国・台湾・香港なので、欧米客を狙う場合は、売上高がそこまで大きくならない可能性もあります。自社の事業規模が市場に見合うかは考えておかないといけません。

物販系は「中国人」がターゲット

買物にお金を使うのは、圧倒的に中国です。免税店などの物販の会社が、こぞって中国人に合わせた品揃え・店づくりを行うのは理にかなってます。2位のベトナムの倍近くですからね。(2位がベトナムというのも少し意外でしたが)

飲食店は傾向を把握するのが難しい

飲食は少し分析が難しく、1日あたりの飲食費(飲食費を平均滞在日数で割る)ですと、香港が1位でシンガポールが2位になります。つまり、飲食代を多く使う=高い食事代を払う、とは言えないのではないかということです。
宿泊費は滞在日数で割ってもランクは大きく変わらないのですが、飲食代は大きく変わってきますので、価格帯だけでなく、お店のロケーションやジャンル・インテリアなどとも関係しそうです。

ホテル・旅館が狙うべきは「欧米」

ホテルなどの宿泊費は、イギリス・フランス・オーストラリア・ドイツ・米国・カナダと完全に欧米が上位にきます。ターゲットは「欧米」ですね。
アジア系の国々は、そこまで宿泊にお金をかけない・民泊などを利用している可能性が高いです。ですので、アジアを狙うのでしたら、格安系のホテル・旅館を運営している場合ということになります。

体験型サービスも「欧米」

娯楽等サービスは、それ自体使われているお金が少ないのですが、イギリス・オーストラリア・フランスが上位にきているように、今のところ完全に欧米向けのサービスですね。
おそらくアジアは「観光」が主な目的で旅行に来ているのに対し、欧米は「滞在」「文化」を楽しみにくる人がアジアに比べると多いのかもしれません。

まとめ

今回は、観光庁発表の訪日外国人観光客データから市場規模や傾向を分析してみました。

インバウンド事業は、まだまだニッチな事業だといえます。ニッチゆえに外国人向けに特化してしまうと、日本人顧客は離れてしまい、今回のコロナの影響のように外国人が来れなくなってしまうと、とたんに苦しくなってしまいます。

僕の会社は、インバウンド事業に関しては、ムスリムに特化した戦略でしたので、大きなダメージを受けました。

インバウンドを考える上では、日本人とニッチ市場をどう両立させていくかが難しいところだと思っています。

かといって、同じサービスで日本人と外国人のどちらも見込み客にするのは、結構難しかったりします。この辺りはまた別記事にて解説したいと思います。

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この記事を書いた人

場末のファイナンシャルプランナー。得意分野は、保険とローン・資産運用。自社では、食品卸・輸出・旅行手配も行ってます。猫と旅と音楽とガジェット類が好き。

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