新型コロナウイルス感染症拡大による景気後退に対して、様々な景気刺激策が打ち出されています。
そんな中で、昨年増税したばかりの消費税の引き下げを求める声が与党内からも出ています。
今のところ、政府には消費税を減税するつもりはないようですが、ドイツが減税を発表したことで、日本でも減税を!訴えている人も多くいます。
日本ではドイツの評価が高いのか、コロナ対応にもドイツを称賛する声が結構ありましたね。
状況や環境が異なりますので、ドイツも減税したんだから日本も!というのは、あまりにも安直すぎるように感じます。
そこで、日本とドイツや世界各国と税収や財政環境を比較してみました。
ドイツの消費税率
日本では「消費税」と言いますが、海外ではVAT(付加価値税)と言います。ここでは言い方を一律にするために「消費税」と表現しますね。
ドイツの消費税率は以下の通りです。
消費税率 | 19% |
食料品の税率(軽減税率) | 7% |
ドイツは、消費税率が19%と日本よりそもそもが全然高いですね。
食料品は軽減軽減税率を使っていて、こちらは7%と非常に低く抑えています。
ドイツはメルケル氏が首相に就任してから2年後の2007年に増税をしていて、消費税率を16%から19%に、所得税の最高税率を42%→45%に上げています。
今「日本も消費税を下げろ」と言っている人はドイツが税率を上げた時は「日本も上げろ!」とは叫ばなかったんですかね?
今回ドイツでは、コロナの影響を受けて、
消費税率 | 19% → 16% |
食料品(軽減税率) | 7% → 5% |
に引き下げると発表しました。(約15%の税率下げ)
2013年のデータですが、ドイツでは、消費税(付加価値税)が国家税収の30%ほどを占めていましたので、この税率を下げるのは大きな決断と言えると思います。
では、ドイツも下げたから日本も下げた方が良いのかと言いますと、そう単純にはいきません。なぜなら、
- ドイツと日本ではそもそもの税率が違いすぎる
- 日本とドイツの財政状況には大きな差がある
からです。
世界各国の消費税率
ここで、ドイツ以外の世界各国の消費税について見てみましょう。
ちなみに日本の消費税率は、世界各国と比べると決して高くありません。EUは税率が高めで、アジアは税率が低い国が多いです。
日本は、財政が悪いわりには消費税率が高い方ではないことがわかります。
(だからといって上げられたら嫌ですけどね)
このように、そもそも税率が大きく異なるので、ドイツが3%下げたから日本も、ではなく、日本の財政や景気にどのくらいのインパクトがあるのかを調べる必要があります。
ドイツの財政状況
さて、ドイツでは、メルケル首相になってから積極的な財政再建を推進してきました。EUでは「マーストリヒト基準」という財政基準があります。
マーストリヒト基準
- 一般政府財政収支対GDP比が▲3.0%以内
- 一般政府総債務残高対GDP比が60%以内
メルケル首相就任時は、これらの基準を超過していたので、緊結に改善していく必要があったのです。税率の引き上げもこれに則って行われたものでした。
その成果もあって、債務残高も減り続け、ここ6年は新規国債も発行せず、財政黒字も達成していました。
ちなみに日本の財政構造は以下の通りです。
国債発行額は増え続けていいます。そして「社会保障」の負担も増え続けていることが非常に大きな課題です。
ドイツと日本は社会保険の負担も違う
もう一つ、比較して考えなくてはいけないのが、社会保険の財政負担です。
是非はともかく、昨年日本が消費税率を上げたのは、年々増え続ける社会保険に充当する、という名目がありました。
日本の社会保険は、現役世代が退職者世代を支える仕組みになっていますので、少子化が進み、超高齢社会になってしまった日本では、社会保障財政が非常に重い負担となっています。
ドイツもEU内では比較的高齢者の多い社会で、日本と同じ「社会保険方式」をとっています。そして、ドイツ国民の社会保険料負担は、日本国民よりも高いです。
ドイツ | 料率 |
---|---|
年金保険料 | 19.6% |
公的医療保険 | 15.5% |
介護保険 | 1.95% |
日本 | 料率 |
---|---|
年金保険料(厚生年金) | 18.3% |
公的医療保険(協会けんぽ) | 9.58〜10.73% |
介護保険 | 1.79% |
ドイツと日本の単純比較は無理がある
このように「元々の消費税率が高く、社会保険料負担率も高く、財政黒字」のドイツと「消費税率が元々低く、社会保険料負担率も同等か少し少なく、財政改善が見られない」日本を、消費税減額だけで比較するの非常に無理があります。
人口減少にも両国間には差
また、人口に関しても両国には大きな違いがあります。
日本は、2004年から人口が減少に転じてから、急激に減少してきていますが、ドイツにおいては、今は少し増えていて数年先から緩やかに減少していきます。
社会保険は、現役世代が退職者世代を支えますので、人口の増減はダイレクトに制度に影響します。こうした背景も日本とドイツでは異なります。
まとめ
消費税を減税するかどうかは、ぜひ政府でも議論いただきたいのですが、他国が下げたから日本も、という訴えは、全くのナンセンスです。
税金の額を変えるのは、それが景気刺激策なのか・財政再建なのか、目的によっても変わってきます。
今回、減税の声が大きいのはコロナによる不況への対応として、という側面が強いと思いますが、どれほどの効果があるのかは、個人的には疑問です。
そもそも収入が下がる可能性がある中で、10%の税率が、8%に戻ったら、5%に減ったからといって、お金を使うようになるとは思えないからです。
税金は安くなった方がもちろんありがたいですけどね。