「節税保険」について新聞やニュースなどで報じられています。生命保険業界にとっては大きな事件で、法人向け商品販売の歴史が変わると思います。
今回は、問題になっている節税保険についてまとめてみました。
節税保険って何?
マスコミでさかんに報じられている「節税保険」。まずは、この節税保険とは何かについて解説したいと思います。
最近、下記のようにニュースで法人が加入する生命保険について報道が多くなされています。
https://www.asahi.com/articles/ASM2Q7GNTM2QULFA03P.html
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20190213-OYT1T50347/
生命保険商品は、死亡時に大きな保険金額を受け取る事ができる「保障」がついた金融商品です。この商品を法人名義で契約する場合、支払う保険料(いわゆる掛け金)を経費扱いにできる商品があります。
保険業界的には「損金扱い」にできる保険商品と表現しますが、税務上経費になるお金のことを「損金」と言うので、こうした呼び方をしています。
損金(経費)扱いになるということは、その分利益が削られることになります。
利益が減る=税金が安くなる=節税になる保険商品ということで「節税商品」と呼ばれています。
例えば、利益が1,000万円出ている時に、支払い保険料(掛け金)が年間1,000万円の保険商品に加入したとします。この支払い保険料が経費扱いにできるとすると、利益1,000万円-経費1,000万円=利益ゼロで税金もゼロになります。(←法人税の話です)
かなりざっくりした解説ですが、要は経費が増えるので利益が減って、税金も減る=節税になる、というだけの話です。
ですが、そんな節税は意味がありません。結局、税金じゃなく保険料としてお金を保険会社に払っているので、払う先が変わるだけの話です。(保険なので保障はついてきますが…)
では、なぜそんな事をするのでしょうか?
経費なのに後からお金が返ってくる
通常、支払い保険料が経費になる商品は、掛け捨て商品で、解約をしても返戻金がないものなのですが、今回報じられている商品には、比較的多くの解約返戻金があるのです。
例えば年間100万円の保険料を支払い、10年後に解約する際、累計1,000万支払っているうち、解約返戻金として800万円戻ってくる、といった内容です。
利益1,000万円でそのまま決算を迎えますと税金で約300万円(*1)取られます。
*1)法人税率を30%で計算しています。
1,000万円の経費になる保険に加入しますと、税金がゼロになります。
しかし、保険の場合は解約返戻金がありますから、お金が戻ってきます。税金は一度支払うと戻ってくることは基本的にありません。
つまり、経費になるのに後から解約金としてお金が返ってくるので、保険に加入して節税しようとするのです。
今回問題になっているのは、経費扱いにできるのにも関わらず、保険料として支払った額の80%以上(保険会社によって違います)もの高い率で解約金が返ってくることに異議が唱えられた、ということです。
保険の支払いは、一回限りではない
一方、生命保険は1年分だけ支払って終わり、ということはありません。
5年とか10年支払い続けて、初めて解約返戻金が、支払い保険料に対して70%とか80%の割合で帰ってくるのです。決算時に保険に加入して翌年解約してもお金はほとんど帰ってきません。
つまり、複数年に渡り保険を掛け続けなければ効果が得られないということになります。
単純に保険に加入したら税金が減った、という話ではないのです。
来年も黒字かどうかわからないという企業も多い中、5年・10年支払い続けて初めて効果が出るものを「節税保険」だと言い切るのにも、違和感を感じます。
そして実は、「節税保険」というものは、そもそも存在しないのです。どういうことか解説します。
節税保険などは世の中に存在しない
掛け金が経費(損金)になる生命保険商品に加入したら、その年は「節税」になりますが、その分、保険会社にお金を支払わないといけない、ということを上記に書きました。
保険会社に保険料を支払って、数年後に解約返戻金としてお金が返ってくるとき、その解約金は「利益」として計上されます。
つまり、保険に加入した際には税金は減りますが、解約した時に利益が増える=税金も増えるので、実は節税をしているのではなくて、「課税を繰り延べ」しているだけに過ぎないのです。
つまり、保険に加入するだけで節税になるということはないのです。
もちろん、経営状況が良くなくて赤字の期に保険を解約したら、解約金が利益計上されても税金を払わなくて良かった、結果論として節税になった、というケースはあると思います。
課税を繰り延べできる効果は大きい
節税はできませんが、課税の繰り延べはできます。
実は、この効果は非常に大きいのです。ポイントは2つあります。
1.考える時間ができる
税金は支払ってしまったら戻ってきませんが、保険を使った課税の繰り延べは、考える時間ができます。数年後に事業投資しようとか社員の給与アップに使おうとか、将来経費が必要な時に充当できる準備ができる、という大きな効果を生み出すことができます。
経営が不安定な中小・零細企業ならなおさらです。
2.赤字の補填ができる
中小企業は経営が不安定なところもあるでしょう。資金繰りに悩まされている会社も多いと思います。保険に加入しておいて、赤字になった際に利益という名前の解約返戻金があれば、赤字を補填することができます。公共事業などを請け負っていて、赤字を出せない会社さんなどは非常に大きな意味を持つと思います。まさに保険として活用ができます。
このように保険料が経費になった上に解約金がある、という生命保険は、中小企業にとって非常に有効な商品です。
生命保険商品そのものは、経営者の万が一等のために、企業が「保障」として備えるべきですし、課税軽減効果があるのも非常にメリットがあります。
今回の事例は、あまりにも「課税の繰り延べ」に特化した販売や加入目的が横行してしまったがために起きたことなのかもしれません。
そして、国税の指導により、保険会社は高い解約返戻率の法人向け保険商品の販売ができなくなりました。
まとめ
- 保険には経費扱いにできて、解約金が戻ってくる商品があった
- 保険で課税の繰り延べはできるが「節税」はできない
- 繰り延べできることは大きな効果がある
- 高い返戻率の保険商品販売が国に否定された